特許権侵害差止請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」とする特許権(特許第4802252号、以下「本件特許」という。)を保有する被控訴人(一審原告。むつ家電特機)が、控訴人ら(シンワおよび進和化学工業)の製造・販売する貝係止具(ホタテ貝養殖に用いられる樹脂製のピンで、ロープに貝を吊るすための器具)が本件特許の技術的範囲に属するとして、特許法100条1項・2項に基づき、製造・販売・販売の申出の差止めおよび廃棄を求めた控訴審である。 本件特許に係る発明は、多数のピン(貝係止具)を可撓性連結材で帯状に連結し、これをロール状に巻き取ってピンセッター(自動差込み機)にセットできるようにしたものである。その特徴は、2本のロープ止め突起の外側ではなく、各突起から内側に離れた箇所で連結材により基材同士を連結した点にあり、これにより連結材を切断した際の「切り残し突起」がロープ止め突起の内側に残り、手作業時に手指や手袋が損傷しにくいという効果を奏するとされる。 原判決(東京地裁)は、被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認定し、控訴人らの無効の抗弁(進歩性欠如・サポート要件違反)や前訴和解の効力による権利行使制限の主張をいずれも退けて請求を全部認容した。これに対し控訴人らが控訴し、当審において新たに新規性欠如(争点2-3)を追加主張するとともに、訴えの利益の喪失(製造販売の中止・在庫廃棄)も主張した。 【争点】 主たる争点は、(1)控訴人らが平成29年3月までに被告各製品の製造・販売を中止し在庫を廃棄したことにより訴えの利益が失われたか、(2)本件各発明が本件特許の出願日前に公然知られていたものとして新規性を欠くか、(3)控訴審における新規性欠如主張が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきかである。 【判旨】 知財高裁は、原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却した。 まず訴えの利益については、製造・販売の中止や在庫廃棄は請求権の要件を事後的に消滅させるにすぎず、既判力をもって請求権の存否を確定する必要性が失われるわけではないとして、訴えの利益は依然として存在するとした。 時機に後れた攻撃防御方法の却下申立てについては、控訴審第1回口頭弁論期日で新規性欠如主張が提出され、次回期日での立証が予定されていた段階では訴訟の完結を遅延させるとは認められないとして却下しなかった。 新規性欠如に関しては、被控訴人自身が平成19年に別件商標権侵害訴訟において、「被告シンワのチラシ(2006年用)」として乙69の4を証拠提出していた事実に着目した。同チラシには「販売促進キャンペーン、納品5月20日~」との記載とともに、中央付近にハの字型の1対の突起を有し、その内側を2本の直線状部分で連結した形状のつりピンが添付されていた。裁判所は、当該チラシが本件特許の原出願日とみなされる平成18年5月24日以前に、控訴人シンワによりホタテ養殖業者等の見込み客に配布されていたと推認できると判断し、同チラシ添付のつりピンの形状は本件発明1の構成要件1A~Hをすべて充足し、本件発明2の構成要件2Aおよび本件発明3の構成要件3A・3Bも充足すると認定した。 その結果、本件各発明は本件特許の原出願日前に日本国内において公然知られた発明であり、新規性を欠き特許を受けることができないものであったとして、被控訴人の権利行使は認められないとの結論に至った。被控訴人自身が過去に提出した証拠により、自らの特許の新規性が否定されるに至った点に、本判決の特徴がある。