特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、美容器に関する2件の特許(本件特許1・特許第5356625号、本件特許2・特許第5847904号)を保有する原告(株式会社MTG)が、被告(株式会社ファイブスター)の製造販売する美容器(被告製品1ないし9)が自社の各特許発明の技術的範囲に属するとして、特許法100条1項・2項に基づき製造販売等の差止めおよび製品の廃棄を求めるとともに、特許法102条1項に基づく損害賠償として3億円の一部請求を行った事案である。 原告製品は「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の美容器で、希望小売価格2万3800円(税抜)前後で百貨店や家電量販店等で販売され、ローラ表面にプラチナムコートを施し、ソーラーパネルによる微弱電流(マイクロカレント)を発生させる機能を特徴とする。これに対し被告製品は、ゲルマニウム粒を使用した「ゲルマミラーボール」と称されるもので、微弱電流発生機構はなく、ディスカウントストア等で3000円ないし5000円程度の価格で販売される廉価品である。被告は平成27年12月から平成29年5月までの約1年半の間に総計35万1724個を譲渡しており、本件は美容機器市場における高級品と廉価品をめぐる特許権侵害紛争として、特許法102条1項による損害額推定の運用が争点となった。 損害賠償請求の原因としては本件特許2の侵害のみが主張されたため、まず本件特許2に基づく権利行使の可否が検討された。 【争点】 主たる争点は、(1)被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか、特に構成要件F(支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体)、構成要件G(回転体は基端側にのみ穴を有する)、構成要件L(回転体内周の段差部)の充足性、(2)本件特許2が進歩性欠如により無効とされるべきか、(3)本件発明1との関係および本件特許1の無効理由、(4)特許法102条1項に基づく損害額の算定、とりわけ原告製品と被告製品の価格帯・機能の差異を踏まえた「販売することができない事情」の評価である。 【判旨】 大阪地方裁判所は、原告の請求の一部を認容した。構成要件該当性については、構成要件Fのキャップ材は請求項に特定されておらず必須の構成ではないから、同要件は支持軸と回転体の位置関係を定めたものにすぎず、被告製品も充足すると判断した。構成要件Gの「回転体」は、ローリング部、円筒状リングおよび円筒部材の総体を指すものと解し、総体としての回転体が基端側にのみ穴を有すれば足りるとした。構成要件Lについても、回転体の芯材それ自体に段差部を形成する構成に限定されず、複数部材の組合せによる段差形成も含まれるとして充足を認めた。進歩性欠如の主張についても、乙44発明および乙45発明を主引例とする容易想到性をいずれも否定した。 損害額算定においては、特許法102条1項を適用し、被告製品の譲渡数量35万1724個を基礎としつつ、原告製品が高級品(約2万円)であり微弱電流機能を有するのに対し、被告製品が廉価品(数千円)で同機能を有しないという価格帯・機能の顕著な差異を重視した。その上で、廉価品であることを認識した購入者の需要が原告製品に向かう可能性は低いとして、譲渡数量の5割については原告が「販売することができない事情」があると認定した。さらに本件特許2の寄与率を10%と評価し、これらを掛け合わせて損害額を算定した上で、相当因果関係のある弁護士費用を加算した。結論として、被告製品の設計変更後も被告が構成要件充足性および無効を争う以上、差止めおよび廃棄の必要性は認められるとして差止・廃棄請求を全部認容し、損害賠償請求については請求額の一部を認容した(主文上の具体的金額は非公開)。 本判決は、特許法102条1項における「販売することができない事情」の判断にあたり、侵害品と特許権者の実施品との価格帯・販売チャネル・付加機能の差異を具体的に評価し、譲渡数量の5割を控除するという比較的大幅な覆滅を認めた事例として実務的意義を有する。高級品と廉価品が並存する市場における損害額算定の一つの指針を示したものといえる。