特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 美容器の製造販売を業とする原告(株式会社MTG)は、「美容器」に係る特許第5791844号(本件特許1)および第5791845号(本件特許2)を保有していた。本件特許の発明は、4本の支持軸の先端部に回転可能に支持された4個のローラを備え、ローラを肌に押し当てて一方向に動かすだけで、先行するローラ対で肌を押圧し、後行するローラ対で肌を摘み上げるという2種類のマッサージ効果を同時に得られる点に特徴がある。従来の美容器は、往復動させないと押圧と摘み上げを両立できないといった課題があり、これを解決するための発明であった。 被告(株式会社ファイブスター)は、海外で製造させた美容器を輸入し、卸売やディスカウントストア、自社ウェブサイト等で販売していたが、原告は、被告製品が本件各特許の技術的範囲に属し特許権を侵害すると主張して、特許法100条に基づく製造・販売等の差止めおよび半製品・金型の廃棄、民法709条・特許法102条1項に基づく損害賠償を求めて本訴を提起した。提訴後、被告は本件各特許につき無効審判を請求し、原告は審判手続の中で請求範囲の訂正請求を行い、訂正認容・無効審判請求不成立の審決が確定していた。 【争点】 主たる争点は、(1)被告製品が訂正後の本件各発明の技術的範囲に属するか、(2)訂正請求に要件違反があるか、(3)本件各特許に進歩性欠如等の無効理由があるか、(4)権利不行使の抗弁が成立するか、(5)特許法103条の過失推定が及ぶか、(6)損害額および「販売することができないとする事情」の有無であった。技術的範囲に関しては、被告製品のローリング部が先端の扁平した「洋ナシ状」であることから「ローラ」に該当するか、支持軸先端が軸受等を介して支持され先端自体がローリング部内周面に接しない構造が「支持軸の先端部に回転可能に支持された」といえるかが主な争点となった。 【判旨】 大阪地方裁判所は、原告の請求を一部認容した。まず、「ローラ」については、本件明細書に球形、ラグビーボール形、ドラム状、多角形筒状等の多様な形状が開示されていることから、肌を押圧・摘み上げる動作が可能な形状であれば足り、特定形状に限定されないと解し、洋ナシ状の被告ローリング部も「ローラ」に該当するとした。「支持軸の先端部に回転可能に支持された」についても、出願経過における引用文献1との対比で先端部で回転するとの技術思想を明らかにした趣旨に照らし、ローラが支持軸の先端部を覆う形で取り付けられている状況を指すと解釈し、軸受や円筒部材を介する被告製品の構造もこれに該当すると判断した。 無効理由については、主引例とされた米国特許(乙17)および他の公知技術(乙18)はいずれもローラが支持軸を貫通する構造で、一方向のみの移動を前提とするものであるから、非貫通構造および上下左右への移動を可能とする構成への変更は容易想到とはいえないとして、進歩性欠如の主張を排斥した。訂正要件違反の主張も、問題となる作用効果が訂正事項に含まれていないことから採用しなかった。 その上で、過失推定については、特許公報の発行前であっても設定登録後は特許法103条の推定が及ぶと判示し、権利不行使の抗弁も、協議段階にとどまり最終合意に達していないとして退けた。損害については、被告製品の譲渡数量3365個のうち、原告製品と被告製品の価格差が約8倍と大きく、販売チャネルや搭載機能(マイクロカレント等)にも相違があることから、5割については「販売することができないとする事情」があると認め、特許法102条1項に基づき残り5割に原告製品の単位利益を乗じた額および相当因果関係のある弁護士費用を損害と認定した。結論として、被告製品の製造・販売等の差止めおよび損害賠償請求の一部を認容し、金型・半製品の廃棄請求は必要性を欠くとして棄却した。