AI概要
【事案の概要】 本件は、米軍横田飛行場(東京都福生市ほか5市1町にまたがる総面積約713万平方メートルの施設)の周辺に居住する住民らが、原告となり、被告国に対して提起した第9次横田基地騒音訴訟である。 横田飛行場は、昭和15年に旧陸軍の多摩飛行場として開設された後、終戦に伴い米軍に接収され、昭和27年の平和条約発効及び旧日米安保条約に基づき、被告が米軍使用が許される施設及び区域として提供してきた。現在は、在日米軍司令部、アメリカ合衆国第5空軍司令部のほか、平成24年3月以降は航空自衛隊航空総隊司令部及び関連部隊も配置され、C-130輸送機等が常駐する米軍の輸送中枢基地となっている。 原告らは、同飛行場を離着陸する航空機の発する騒音により、睡眠妨害、会話・通話妨害、テレビ・ラジオの聴取困難等の生活妨害のほか、身体的被害及び精神的被害を受けているとして、(1)人格権、環境権及び平和的生存権に基づき、午後7時から翌日午前8時までの航空機離着陸等の差止め、昼間時間帯における70dBを超える航空機騒音の音量規制、及び米軍機による旋回・急上昇・急降下の訓練差止めを求めるとともに、(2)日米地位協定の実施に伴う民事特別法1条又は2条に基づき、原告1名あたり1か月2万3000円(慰謝料2万円+弁護士費用3000円)の割合による損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)自衛隊機に係る差止請求に係る訴えの適否(民事訴訟として適法か)、(2)米軍機に係る差止請求の成否、(3)航空機騒音による被害が社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利侵害に当たるか、(4)告示コンター内地域(防衛施設庁方式による75W以上の地域)外の原告らについての受忍限度超過の有無、(5)危険への接近の法理による免責ないし損害減額の成否、(6)住宅防音工事の助成を受けた原告についての損害減額の要否、(7)口頭弁論終結日翌日以降の将来の損害賠償請求に係る訴えの適否である。 【判旨】 裁判所は、まず自衛隊機に係る差止請求について、防衛大臣による自衛隊機の運航に関する権限の行使は公権力の行使に当たるから、民事上の請求としての差止めは不適法であるとして却下した(厚木平成5年最高裁判決に依拠)。米軍機に係る差止請求については、横田飛行場における米軍機の運航はアメリカ合衆国によるものであり、被告にこれを規制する法令上の根拠がないから、主張自体失当として棄却した。 損害賠償請求については、告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告らは、相当に大きな騒音曝露を受け、睡眠妨害や心理的・情緒的被害という共通損害を被っていると認定した上で、横田飛行場の運航に公共性・公益上の必要性は認められるものの、これは原告らに特別の犠牲を強いるもので被害を正当化できず、住宅防音工事等の周辺対策も限定的・間接的効果にとどまり、被告が抜本的な被害防止策を講じずに被害を漫然放置していることを併せ考慮して、受忍限度を超える違法な権利侵害に当たると判断した。他方、指定区域外に居住する原告らについては、平均的・総体的な騒音曝露状況が明らかでないとして慰謝料請求を認めなかった。危険への接近の法理による免責は、横田飛行場の存在や騒音実態の認識可能性に乏しいとして原則として否定し、一部の原告について過失相殺的減額を認めるにとどめた。平成30年7月20日以降の将来の損害賠償請求に係る訴えは、将来の被害発生が不明確であるとして却下した。 結論として、主要な原告らについて過去の損害賠償請求を一部認容し、その余の請求を棄却した。