AI概要
【事案の概要】 本件は、元実業団のマラソン選手である被告人が、平成30年2月9日午後8時45分頃、群馬県太田市内のスーパーマーケットにおいて、キャンディ1袋等3点(販売価格合計382円)を自己のジャンパーの内側に隠匿して窃取したという万引き1件の事案である。 被告人は、高校時代に陸上競技で減量を始め、実業団で厳しい体重管理を指示されたことから、過食後に食べたものを吐く「食べ吐き」を繰り返すようになり、神経性やせ症(摂食障害)を発症した。その後、合宿で財布を取り上げられたことをきっかけに万引きを始め、窃盗罪で複数回検挙され略式命令も受けていた。平成29年11月には同種事案で懲役1年・執行猶予3年の判決(前件万引き)を受け、医療機関に入院して治療プログラムを受けていた。ところが、退院後わずか約3か月で本件犯行に及んだものである。なお、被告人は本件犯行時、高額の預貯金等を保有し、現金2万1000円余りやクレジットカードも所持していた。 【争点】 被告人の責任能力、すなわち本件犯行時に神経性やせ症、社交不安障害および境界知能の影響により心神耗弱の状態にあったか否かが争われた。弁護人は、被告人が精神障害により事理弁識能力および行動制御能力が著しく低下していたと主張し、鑑定医E医師も被告人は行動制御能力が著しく損なわれ事理弁識能力も一部損なわれていた旨の意見を述べていた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、精神医学者の鑑定意見は採用し得ない合理的事情がない限り十分に尊重すべきであるとの最高裁判例(平成20年4月25日第二小法廷判決)を踏まえたうえで、E意見のうち行動制御能力が著しく損なわれていたとする部分は採用できないと判断した。被告人が被害品を隠匿する際にパンコーナーへの経路から外れた調味料売場までわざわざ移動し、片手で買い物かごを持ちつつ襟元を直して商品の落下を防ぐなど、一貫性・合目的性のある行動をとっていること、本件犯行の前後で値引き商品を選別するなど正常な精神作用が相当程度働いていたことを指摘し、事理弁識能力はわずかに低下した疑いにとどまり、行動制御能力も一定程度の低下にとどまると認定し、完全責任能力を肯定した。 量刑については、被害額が400円足らずで被害品が還付されていることから犯情は重くないとしつつ、同種前科2犯と執行猶予中の再犯であり常習性が認められるとした。他方、神経性やせ症の影響で衝動制御能力が低下していたこと、婚約破棄の民事和解によりストレス要因が緩和されたこと、医療機関への入院治療および施設入所による再犯防止環境が整えられたこと、両親の監督意向等を酌量し、刑法25条2項の再度の執行猶予を認めるのが相当と判断した。被告人を懲役1年に処し、4年間刑の執行を猶予し、猶予期間中保護観察に付した(求刑は懲役1年の実刑)。