AI概要
【事案の概要】 ボイラ及びその関連設備の製造販売業者である原告が、原告の元取締役であった被告P1や、岩手県釜石市でバイオマス発電事業を展開していた被告オーテックら関係各社・個人に対し、損害賠償を求めた事案である。原告は、東日本大震災後の釜石市で計画された震災瓦礫処理事業・バイオマス発電事業のメンバーとして参画し、被告らと共に事業化に向けた検討を重ねていた。その中で原告は、専務取締役であった被告P1に設計業務を任せ、逆燃式燃焼炉等の設計製造情報やCAD図面データを同人に取り扱わせていた。被告P1は平成24年12月末に原告を退任し、被告さつきのグループ会社に移籍した後、被告オーテックが林野庁から受託した「木質バイオマスエネルギーを活用したモデル地域づくり推進事業」において、バイオマスボイラ及び関連設備(本件ボイラ等)の設計を担当し、原告から持ち出した図面データを基にこれを設計・製造した。原告は、主位的に、本件設計製造情報及び本件図面データが原告の営業秘密に当たるとして、不正競争防止法2条1項4号・5号・7号・8号の不正競争行為に基づく同法4条の損害賠償請求(逸失利益5248万円余と弁護士費用500万円、合計5748万円余)を、予備的に、原告を事業から排除して本件ボイラ等を製造した行為が共同不法行為を構成するとして民法709条等に基づく同額の損害賠償を求めた。 【争点】 主たる争点は、(1)本件技術情報(設計製造情報及びCAD図面データ)が不正競争防止法上の営業秘密に該当するか、特に秘密管理性を備えるか、(2)一般不法行為が成立するか、すなわち、原告が将来のボイラ受注について法的保護に値する期待利益を有していたか、原告を事業から排除した被告らの行為が自由競争の範囲を逸脱する違法なものといえるか、である。 【判旨】 請求棄却。まず不正競争防止法に基づく主位的請求について、裁判所は秘密管理性の要件を検討し、営業秘密として保護されるためには、保有者が主観的に秘密にする意思を持つだけでなく、情報にアクセスする者に当該情報が営業秘密であると認識できるようにする措置が採られていることが必要であると述べた。その上で、本件図面データが保管されたPCにはログインパスワードが設定されておらず、図面データ自体にもパスワードがなかったこと、被告P1が自宅に図面データを持ち帰ることを禁止されていなかったこと、就業規則で対象となる秘密が特定されていなかったこと、原告代表者が被告P1に本件PCをインターネット非接続とした趣旨を説明していなかったことなどを指摘し、原告が主張する諸事情(特定PCのみでの保管、インターネット非接続、アクセス権限の限定、情報の重要性、被告P1の取締役としての地位)を個別に検討してもいずれも秘密管理措置とは評価できないとして、本件図面データ及び本件設計製造情報の秘密管理性を否定した。次に予備的請求である一般不法行為について、原告が主張する利益は本件震災瓦礫処理事業等の延長線上にあるバイオマス発電事業でボイラ等を必ず受注できる利益に等しいところ、必ず受注できる旨の合意はなく、契約交渉が大詰めの段階にも至っていなかったとして期待権の保護を否定した。また、被告P1の引抜き行為については、自由競争の原理や転職の自由に照らし、社会的相当性を逸脱する背信的方法によるものとは認められないとし、本件技術情報の使用も不正競争行為に該当しない以上、営業の自由の濫用と見るべき特段の事情がない限り不法行為を構成しないとして、請求を全て棄却した。本判決は、中小企業における営業秘密管理のあり方、とりわけ秘密管理性要件の該当性判断について具体的な基準を示すとともに、不正競争行為に該当しない情報利用行為について一般不法行為が成立する範囲を限定的に捉えた点に実務的意義がある。