覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29あ44
- 事件名
- 覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2018年12月11日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄自判
- 裁判官
- 宮崎裕子、岡部喜代子、山崎敏充、戸倉三郎、林景一
- 原審裁判所
- 福岡高等裁判所_宮崎支部
AI概要
【事案の概要】 本件は、特殊詐欺グループに加担し、高齢者から現金をだまし取る、あるいはだまし取ろうとした被告人に対し、詐欺・詐欺未遂罪等が成立するかが争われた事案である。 被告人は、平成27年9月頃、かつての職場の同僚Gから、「指示したマンションの空室に行き、宅配便で届く荷物を住人を装って受け取り、別の場所まで運ぶ」という「仕事」を依頼された。報酬は1回10万円から15万円で、逮捕される可能性があることも説明されていた。被告人は同年10月半ばから約1か月間に約20回、埼玉・千葉・神奈川・東京のマンション空室で、その都度異なる名宛人になりすまして荷物を受領し、指示された場所に置くか回収役に手渡していた。実際の報酬は1回1万円と交通費程度であった。 本件では、氏名不詳者らが高齢者3名(83歳、80歳、87歳)に対し、老人ホームの入居契約トラブルを解決するための立替金が必要でこれは後に返還される等と電話で嘘を言い、現金をマンション宛てに宅配便で発送させたところ、被告人が名宛人になりすまして荷物を受け取った(1件は被害者が嘘を見破り未遂)というものである。被告人は、他に覚せい剤取締法違反(使用・所持)も併せて起訴された。 第1審は詐欺の故意及び共謀を認め懲役4年6月を言い渡したが、原審(控訴審)は、被告人は荷物の中身が違法薬物や拳銃だと認識していたと弁解しており、いわゆる空室利用送付型詐欺が当時広く周知されていたとはいえず、被告人が知っていた従来型の詐取方法(口座振込み・直接受領)と本件手口は異質で両者を結び付けるには高度な抽象能力・連想能力が必要であるなどとして、詐欺の故意及び共謀を認めず無罪を言い渡した。検察官が上告した。 【争点】 特殊詐欺の「受け子」役を担った被告人について、詐欺の故意(未必的故意)及び共犯者らとの共謀が認められるか。具体的には、受領した荷物の中身が詐取金である可能性の認識が推認できるかが争点となった。 【判旨(量刑)】 最高裁第三小法廷は、原判決を破棄し、被告人の控訴を棄却した(第1審の懲役4年6月が確定)。 最高裁は、被告人が指示を受けてマンション空室に赴き、配達される荷物を名宛人になりすまして受け取って回収役に渡す行為を、異なる場所で異なる名宛人になりすまして多数回繰り返し、1回約1万円の報酬を受領し、かつ被告人自身が犯罪行為に加担していると認識していたことを自認している事実を指摘した。そのうえで、こうした事実は「荷物が詐欺を含む犯罪に基づき送付されたことを十分に想起させるもの」であり、空室利用送付型詐欺の手口が報道等により社会に周知されているか否かにかかわらず、それ自体から被告人が自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させるとした。 また、従来型の詐取方法と本件手口は、多数の者が役割分担する中で他人になりすまして財物を受け取るという点で共通しており、高度な抽象能力・連想能力がなければ詐欺の可能性を想起できないとする原判決の判断は不合理で是認できないとした。被告人が荷物の中身を拳銃や薬物だと思っていた旨の供述も、実際に確認したわけではなく、詐欺の可能性の認識が排除された事情もうかがえないとした。 結論として、被告人は自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したもので、詐欺の未必の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められると判示した。本判決は、いわゆる「受け子」の故意認定について、行為態様自体から詐欺の未必的故意を推認できることを明確にしたものであり、特殊詐欺に関与する末端関与者の刑事責任を広く問いうる重要な先例として実務的意義を有する。