所得税法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、軽食販売業を営む被告人が、平成26年分から平成28年分までの3年間にわたり、所得税及び復興特別所得税の確定申告書を法定納期限までに所轄税務署長に提出せず、無申告のまま期限を徒過させることにより、合計約1億3,200万円の所得税を免れたとして起訴された所得税法違反の事案である。 被告人の各年分の所得は、平成26年分が総所得金額約7,146万円(所得税額約2,558万円)、平成27年分が総所得金額約1億2,127万円(所得税額約4,954万円)、平成28年分が総所得金額約1億3,781万円(所得税額約5,696万円)と、いずれも相当高額に上っていた。被告人は確定申告をしなかった理由について、申告方法が分からなかったなどと供述していた。 本件で問われた所得税法238条3項は、確定申告書を法定納期限までに提出しないことにより所得税を免れる行為、いわゆる「単純無申告ほ脱犯」を処罰する規定である。同項に該当する場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科とされ、さらに同条4項により、情状により免れた税額に相当する金額以下の罰金を科すこともできる。本件では同4項が適用され、極めて高額の罰金刑が選択可能な構成となっていた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人を懲役1年及び罰金2,600万円に処し、懲役刑について3年間その執行を猶予した。罰金不納付の場合は1日2万円換算で労役場留置とされた。 量刑理由として、裁判所はまず、3年分合計約1億3,200万円と高額の所得税を免れた無申告ほ脱の事案であり、その結果は重大であると指摘した。申告方法が分からなかったとの被告人の弁解についても、そうであれば税務署や専門家に相談して申告すべきものであり、多額の利益が生じていたことを認識していた以上、相応の非難は免れないと判示した。 他方で、被告人が既に本税、延滞税及び無申告加算税の納付を済ませていること、前科がないこと、事実を素直に認めて反省の態度を示し、税理士に依頼して納税義務を果たす旨供述し、実際に平成29年分の所得税は適切に納付していること、被告人の三女が家族とともに監督する旨法廷で誓約していることなど、被告人に有利な事情を総合考慮した。 求刑は懲役1年及び罰金3,900万円であったが、裁判所は罰金額を大きく減じつつ、懲役刑については求刑どおりとした上で執行を猶予することで、納税の重要性に対する非難と、既に納付を終えた被告人の更生可能性の双方に配慮する結論を示したものである。本判決は、単純無申告による高額脱税事案においても、事後の本税等完納や反省の姿勢があれば執行猶予が付されうることを示した実務上参考になる事例である。