各原爆症認定申請却下処分取消請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成28行コ285
- 事件名
- 各原爆症認定申請却下処分取消請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2018年12月14日
- 裁判種別・結果
- 棄却
- 裁判官
- 垣内正、澤諭、垣内正
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、原子爆弾に被爆し被爆者健康手帳の交付を受けている被控訴人が、自らの慢性心不全(狭心症)について、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項の原爆症認定を厚生労働大臣に申請したところ、これを却下されたため、当該却下処分の取消しを求めた事案である。原審(東京地裁)は、被控訴人を含む原告らの請求をほぼ認容したため、国(控訴人)が被控訴人に係る部分を不服として控訴した。 被控訴人は、爆心地から約4.2キロメートル離れた自宅近くで12歳のときに被爆し、同日に雨を含む降下物を浴びた上、原爆投下の4日後までに爆心地から約500メートル付近まで入市し、爆心地近くで被爆した兄と接触したり、壊れた水道から相当量の水を経口摂取したりしていた。その後、胃がん及び大腸がんについては原爆症認定を受けていたが、平成21年以降発症した慢性心不全(狭心症)については、厚生労働大臣から放射線起因性が認められないとして認定を却下された。原爆症認定には、申請疾病と放射線被曝との間に因果関係(放射線起因性)があることが要件とされている。 【争点】 主な争点は、被控訴人の慢性心不全(狭心症)について放射線起因性が認められるかである。具体的には、(1)放射線被曝と狭心症(特に安定狭心症)との一般的関連性の有無及びしきい値の存在、(2)被控訴人の放射線被曝の程度、(3)高血圧、糖尿病、肥満、加齢、睡眠時無呼吸症候群、喫煙等の危険因子が被控訴人の慢性心不全の発症に与えた影響の評価が問題となった。国側は、被控訴人は爆心地から離れた地点で被爆しており被曝線量は僅かで、0.5グレイを上回る被曝がない限り心疾患との関連性は認められず、被控訴人の狭心症は安定狭心症であって放射線被曝と関連しない、かつ各種危険因子で説明できると主張した。 【判旨】 本判決は控訴を棄却し、原判決を維持した。裁判所は、放射線起因性の判断は、経験則に照らし全証拠を総合検討し、放射線が申請疾病を招来した関係について高度の蓋然性が認められるか否かによって判定すべきであり、科学的知見が未解明であることを前提に、被爆者救済という被爆者援護法の趣旨に則って行うべきであるとした。その上で、DS02を基本とする線量推定は遠距離被爆者では過小評価となりうること、放射性降下物・誘導放射化物質・内部被曝の影響も無視し得ないことを踏まえれば、被控訴人は推定線量を上回る被曝を受けていたと推認できるとした。 被控訴人の狭心症については、短期間に冠動脈の狭窄が急速に進行していること、平成23年3月の救急受診時に心筋傷害マーカーが相当程度高値を示し冠動脈イベントの発生も疑われたこと等に照らせば、典型的な安定狭心症とはいえず、少なからず不安定化したプラークも保有する狭心症であったと認定した。また、高血圧、糖尿病、加齢については慢性心不全の発症に一定の影響は否定できないが、いずれも特に大きく影響したとまではいえず、肥満、睡眠時無呼吸症候群、27年前に中止した喫煙も要因とはいえないとして、専ら原爆放射線以外の原因によって狭心症が発症したことを疑わせる事情は認められないとした。これらを総合考慮し、放射線が被控訴人の慢性心不全を招来した関係に高度の蓋然性が認められるとして、却下処分を違法とした原判決を是認した。本判決は、0.5グレイ未満の低線量被曝と心疾患との関連性、及び安定狭心症と放射線被曝との関係について、被爆者救済の見地から柔軟な総合判断を示した点に意義がある。