危険運転致死傷,暴行(予備的訴因|監禁致死傷),器物損壊,強要未遂被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29わ1680
- 事件名
- 危険運転致死傷,暴行(予備的訴因|監禁致死傷),器物損壊,強要未遂被告事件
- 裁判所
- 横浜地方裁判所
- 裁判年月日
- 2018年12月14日
- 裁判官
- 深沢茂之、伊東智和、澁江美香
AI概要
【事案の概要】 本件は、東名高速道路上で発生した「あおり運転」事案を含む4件の事件を併合審理したものである。被告人は、平成29年6月5日午後9時33分頃、東名高速道路下り線のパーキングエリアで駐車方法を非難されたことに憤慨し、被害者D運転の普通乗用自動車(同乗者はC、未成年のE・Fを含む4名)を停止させて文句を言おうと考え、同車を追跡。片側3車線道路の第2車両通行帯を時速約100kmで追い越した上、被害車両の直前に車線変更して減速・接近する行為を4度にわたり繰り返し、遂には被害車両を第3車両通行帯上に停止させるに至った(いわゆる4度の妨害運転)。その後被告人は降車し、Cの胸ぐらをつかむなどの暴行を加えたが、両車両停止から約2分後、後方から進行してきた大型貨物自動車が被害車両に追突し、更に被告人車両にも衝突、この衝撃でC・Dが死亡、E・Fが負傷する重大事故が発生した(第3事件)。被告人は、この前後にも、自車を追い越されたことに憤慨して相手車両を停止させ、窓ガラスを叩きながら「出てこい」等と怒号して降車を強要しようとした事件を2件(第1・第4事件、いずれも未遂)、被害車両ドアを足蹴にして損壊した事件1件(第2事件)を起こしている。 【争点】 最大の争点は、被告人の運転行為と死傷結果との因果関係である。具体的には、①被告人が被害車両の直前で時速0kmまで減速して停止した「直前停止行為」が、危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条4号)にいう「重大な交通の危険を生じさせる速度」という速度要件を充たす実行行為に該当するか、②被告人の妨害運転と、後続車による追突で生じたC・Dの死亡等との間に因果関係が認められるか、である。弁護人は、直前停止行為は実行行為に当たらず、4度の妨害運転に内在する危険が死傷結果に現実化したとはいえないと主張した。第1・第4事件では、降車を強要する故意・行為の有無も争われた。 【判旨(量刑)】 横浜地裁は、争点①につき、速度要件は衝突により大事故を生じさせる速度等をいい下限は概ね時速20〜30km程度であるから、時速0kmで停止する行為は類型的にこれに該当せず、また「運転する行為」の文言上停止行為を含むとは解しえないとして、直前停止行為は同罪の実行行為に当たらないと判示した。もっとも争点②については、4度の妨害運転はそれ自体重大な人身事故につながる危険を有し、直前停止行為や降車後の暴行も被害車両を停止させて文句を言いたいとの一貫した意思に基づく密接関連行為であり、夜間高速道路上で追越車線に停止した被害車両への追突可能性は極めて高かったとして、死傷結果は妨害運転に内在した危険が現実化したものと認め、因果関係を肯定した。第1・第4事件についても、被害者供述の信用性を高く評価し、強要未遂罪の成立を認めた。量刑においては、短時間に4回もの妨害運転を行った危険性、家族旅行帰りに突如生命を奪われた被害者・遺族の無念、身勝手かつ自己中心的な動機、約3か月半に4件の犯行を重ねた点などを重くみた上、真摯な反省があるとまでは評価できないとして、求刑懲役23年に対し被告人を懲役18年に処した。本判決は、あおり運転による死傷結果につき危険運転致死傷罪の成立を認めた先駆的事例であり、後の妨害運転罪(令和2年改正)創設にもつながる社会的意義を有する。