不当利得返還請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、導光板に関する特許権を有する原告(プラスチック成型加工業者)が、被告(米国法人のアマゾン・ドット・コム・インターナショナル・セールス社)の販売する電子書籍リーダー「Kindle Paperwhite」(第1世代から第3世代)のライトガイドが、原告の保有する特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属すると主張して、不当利得返還請求権に基づき、実施料相当額の一部150万円の返還を求めた事案である。 原告の本件特許は「導光板および導光板アセンブリ」を発明の名称とし、透明な板状体の一端面から入射する光を、板状体の裏面に設けられた回折格子によって表面側へ回折させる導光板について、回折格子の断面形状または単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を、表面の輝度が増大し均一化されるように変化させる構成(構成要件B)を特徴とするものであった。 これに対し、被告製品のライトガイドは、板状体の下側(裏面)に光源を配置し、微細構造体によって上側(表面)へ光を透過させる、いわゆるフロントライト型・透過型の構造を採用していた。両者は、回折格子(微細構造体)が板状体の裏面に設けられて光を表面側へ回折させる(反射型)構成か、表面側に設けられる(透過型)構成かという点で相違しており、原告は、この相違は非本質的部分にすぎず、均等の五要件を充足すると主張した。 【争点】 被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか、特に均等侵害が成立するかが中心的争点となった。具体的には、反射型回折格子を前提とする本件発明と、透過型の微細構造体を用いる被告製品との相違が、均等侵害の第1要件(非本質的部分性)等を充足するかが争われた。併せて、本件特許が拡大先願(特許法29条の2)違反やサポート要件違反等により無効とされるべきかも争われた。 【判旨】 請求棄却。 裁判所は、最高裁平成10年2月24日判決(ボールスプライン事件)及び平成29年3月24日判決(マキサカルシトール事件)を参照しつつ、均等の第1要件(非本質的部分性)について判断し、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に従来技術との比較から認定されるべきであり、従来技術に対する貢献の程度が大きくない場合には特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると判示した。 その上で、本件明細書が従来技術としてプリズムによる全反射を利用した導光板のみを挙げているのに対し、原告自身が本件出願前に導光板裏面に回折格子を設ける発明を出願していたこと、乙8発明(拡大先願発明)が既に導光板の裏面にホログラムの回折格子を設け、単位幅における格子部幅/非格子部幅の比を変化させて輝度を均一化する構成を開示していたことを認定。均等侵害の本質的部分の認定に当たっては拡大先願発明も参酌すべきと述べた上で、本件発明が従来技術と異なるのは、体積・位相型のホログラムではなく刻線溝又はエンボス型のホログラムを用いた点にとどまり、従来技術に対する貢献の程度は大きくないと評価した。 したがって本件発明の本質的部分は特許請求の範囲の記載とほぼ同義に解すべきであり、「板状体の裏面に設けられた回折格子」という構成を欠く被告製品(透過型・フロントライト型)は本件発明の本質的部分を備えているとはいえず、均等の第1要件を充足しないと結論付け、その余の争点について判断するまでもなく請求を棄却した。 本判決は、均等侵害の本質的部分認定において拡大先願発明も参酌すべきとする解釈を示した点に、実務上の意義を有する。