職務発明対価支払い請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、昭和54年4月から平成25年3月まで被告(ソニー株式会社)の従業員として、光ディスクにおけるエラー訂正技術の開発に従事してきた者である。原告は、在職中に他の従業員らと共同で、光ディスクのエラー訂正技術に関する複数の発明(CD-ROM用エラー訂正技術及びDVD-RAM用データ記録ディスクに関するもの)を行い、これらの発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡した。これらの発明は、被告とフィリップス社が主導して策定したCD-ROM規格及びDVD規格の必須特許として標準規格に採用され、被告は多数のライセンシーから多額のライセンス料を得ていた。 被告は、発明考案規定に基づき、平成2年5月に本件特許1-3の実施報奨金、平成16年12月に本件特許2-1の実施報奨金(平成16年支払)、平成18年12月に本件特許1-5の実施報奨金(平成18年支払)をそれぞれ原告に支払った。しかし原告は、これらの支払額が旧特許法(平成16年法律第79号による改正前の特許法)35条3項にいう「相当の対価」に満たないとして、不足額278億円余の一部請求として30億円及び遅延損害金の支払を求めて本訴を提起した。 【争点】 主たる争点は、(1)本件特許2-1及び2-2に係る発明について原告の発明者該当性、(2)本件発明により被告が受けるべき利益の額(ライセンス料収入及びそこに占める本件発明の寄与割合)、(3)本件発明についての被告の貢献度、(4)共同発明者間における原告の貢献度、(5)相当対価の額、(6)相当対価支払請求権の消滅時効の成否(とりわけ実施報奨金の支払による債務承認の有無)である。 【判旨】 裁判所はまず消滅時効について、相当対価支払請求権の消滅時効の起算点は、被告発明考案規定における実施報奨金の支払時期、すなわち特許権の設定登録時点と当該発明の実施等がされた時点のいずれか遅い時点から進行するとした。その上で、本件特許1-1ないし1-4及び本件特許2-2については時効が完成しており、実施報奨金の支払による債務承認も認められないとして、これらに係る請求を棄却した。他方、本件特許1-5については平成18年支払が債務の一部弁済に当たり時効援用権を喪失し、本件特許2-1については平成16年支払が時効中断事由たる承認に当たると認め、これらについて時効消滅を否定した。 次に本件特許2-1及び2-2の発明者該当性について、発明報告書上は原告の氏名が筆頭発明者として記載されていなくとも、原告がアイデアの着想から完成に向けた議論において中心的役割を果たし、出願手続においても共同発明者として扱われ譲渡証への押印や米国出願における宣誓書作成を求められていた経緯に照らし、原告は発明者に当たると認定した。 相当対価の算定については、本件特許1-5及び2-1がCD-ROM規格及びDVD-RAM規格の必須特許として標準規格に採用されたこと、規格策定・プロモーション・ライセンシング・事業化がいずれも被告の主導と経済的出捐によって行われたことを重視し、被告の使用者としての貢献度をいずれも95%と認定した。また共同発明者間における原告の貢献度は、本件特許1-5について25%、本件特許2-1について33%と認めた。これらを基礎に算定した相当対価から既払金を控除した残額833万6319円及び遅延損害金の支払を認容し、その余の請求を棄却した。 本判決は、職務発明対価請求訴訟において、標準規格必須特許の性格を踏まえて使用者側の貢献度を極めて高く評価する近時の裁判例の流れに沿う判断を示したものとして、実務上意義を有する。