公文書部分公開決定処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、東京都板橋区情報公開条例に基づき、板橋区長に対し、区を当事者とする別件訴訟(第三者を原告とする損害賠償請求事件)の第一審判決書正本および控訴審判決書正本の公開を請求した原告が、区長から一部を非公開とする部分公開決定を受けたため、非公開部分の取消しと、非公開処分によって精神的苦痛を被ったとして国家賠償法1条1項に基づき10万円の損害賠償を求めた事案である。 区長は、本件請求対象文書である判決書には別件訴訟原告の住所氏名、所有不動産情報、事件番号のほか、別件訴訟原告と区との間の法律関係や経歴等に関する情報が記録されており、これらの情報全体が本件条例6条1項2号の「特定の個人が識別され得るもの」に当たると主張した。特に、開廷表の確認と民訴法上の訴訟記録閲覧制度を利用すれば判決書の文字列を照合して別件訴訟原告を識別できること、情報公開請求者が既に訴訟記録を閲覧している事実などを理由に、判決書のほぼ全体を非公開として扱った。 なお、区長は以前にも同じ請求に対して第1次処分を行っていたが、理由提示の不備を理由に取り消されており、控訴審係属中に改めて理由を付して本件処分をした経緯がある。 【争点】 (1) 本件条例6条1項2号にいう「特定の個人が識別され得るもの」の判断基準と、判決書の内容全体が個人識別情報に当たるか (2) 訴訟記録が民訴法上の閲覧制度の対象となることをもって、本件条例6条1項2号ただし書アの「法令等の規定により公にされている情報」に当たるか (3) 本件条例6条2項に基づく部分公開の義務の有無(判決書全体を独立した一体的な情報と見るべきか) (4) 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の可否 【判旨】 裁判所は、本件条例6条1項2号の「特定の個人が識別され得る」情報には、他の情報との照合による識別可能性も含まれるが、照合対象とすべき情報の範囲は無限定ではなく、一般人が知り得る情報に加え、特定の範疇に属する者が通常入手可能な情報と照合して識別される具体的可能性がある場合に限られると解した。 その上で、別件訴訟原告の住所氏名、所有不動産情報(不動産登記事項証明書は誰でも取得可能)、事件番号の号数字部分(裁判所名等と組み合わせれば訴訟記録閲覧により識別可能)は個人識別情報に当たり、かつ民訴法上の閲覧制度には閲覧制限の例外があり事件特定情報も一般人の知り得る情報ではないから、同号ただし書アの除外事由にも該当しないとして、これらの部分を非公開とした処分は適法とした。 他方、それ以外の紛争内容・主張・認定事実・判断等が記録された部分については、住所氏名等を除けば一般人の情報と照合しても別件訴訟原告を識別できず、既に訴訟記録を閲覧している者の情報を照合対象に含めるのは条例の趣旨に反するとして、個人識別情報に該当しないと判断した。また区長の6条1項6号該当性の主張も、具体的支障の主張立証がないとして斥けた。 部分公開義務については、判決書は事件特定・当事者特定・主文・主張・事実認定・法的判断等に容易に区分できるから判決書全体を独立した一体的情報と解することはできず、個人識別情報部分をマスキングにより容易に分離できるとして、区長には残部を公開する義務があったと認めた。 国家賠償責任については、区長の判断手法は条例の趣旨目的に反し、これを支持する裁判例や学説も見当たらず、他自治体の取扱いと比べても極めて広範を非公開とするものであるから、通常尽くすべき注意義務を尽くせば不合理と知り得たとして、国家賠償法1条1項の違法を認め、慰謝料1万円の限度で請求を認容した。