特許権侵害行為差止請求
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、変形性膝関節症患者の大腿骨又は脛骨に形成された切込みを拡大し、移植物を挿入可能なスペースを形成するための「骨切術用開大器」(特許第4736091号)を保有する原告(オリンパステルモバイオマテリアル株式会社)が、被告(HOYA Technosurgical株式会社)の製造・貸渡しに係る同種製品が本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するとして、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の生産・貸渡し・貸渡しの申出の差止め及び廃棄を求めた事案である。 本件特許発明は、先端のヒンジ部により揺動可能に連結された2対の揺動部材と、これを開閉させる2つの開閉機構を備え、2対の揺動部材を軸線方向に着脱可能に組み合わせ、その一方に他方と係合する「係合部」を設けた骨切術用開大器であって、2対の揺動部材を同時に開いて広い面積で切込みを拡大した後、一方の揺動部材のみを取り出して移植物挿入スペースを確保できる点に技術的特徴がある。 【争点】 (1)被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(特に構成要件Cの「2つの開閉機構」、構成要件Dの「着脱可能」、構成要件Eの「係合部」の充足性)、(2)均等侵害の成否、(3)サポート要件違反の有無である。特に核心的争点は、被告製品では揺動部材同士を繋ぐ「角度調整器のピン」及び「留め金の突起部」が揺動部材とは別部材として構成されていることから、これが構成要件Eの「揺動部材の一方に設けられた係合部」に該当するかであった。 【判旨】 東京地裁は、構成要件C及びDの充足を認める一方、構成要件Eについては、請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に……係合部が設けられている」との文言や、係合部が設けられている側と設けられていない側を区別する請求項3・4の規定、明細書における「部材」(独立した部品)と「部」(部材の一部)の使い分けに照らし、本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成するものと解すべきであるとして、別部材である被告製品は文言侵害に当たらないと判断した。 しかし、均等侵害については、本件発明の本質的部分は「開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせ、係合部を設けることで2対が同時に開く構成」にあり、係合部を揺動部材の一部とするか別部材とするかは本質的部分に当たらないとして第1要件を充足するとし、置換可能性・置換容易性・公知技術との非同一性・意識的除外の不存在の各要件も充足すると認定した。特に第5要件については、本件意見書の記載は引用文献1との相違を示すものにすぎず、係合部を別部材とする構成を特許請求の範囲から意識的に除外したとは認められないとした。また、サポート要件違反の主張も退け、結論として均等侵害を認めて、被告製品の生産・貸渡し・貸渡しの申出の差止め及び廃棄を命じた。 本判決は、医療機器分野における特許クレームの「係合部」という構造的要件について、文言解釈と均等論の双方を丁寧に検討したものであり、特に構成要件の一部を独立した別部材で代替した場合における均等侵害の成否につき、「ある部材から他の部材に力を伝達する際に第3の部材を介するかは当業者の設計的事項である」との判断を示した点で、実務上参考となる事例である。