不正競争行為差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、医療機器メーカーである原告(住友ベークライト株式会社)が、被告(日本コヴィディエン株式会社)に対し、不正競争防止法2条1項1号に基づき、被告商品の製造・輸入・譲渡等の差止めと廃棄を求めた事案である。 原告は、昭和59年から「SBバック」という商品名で、携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器を製造販売してきた。これは、手術後の患者の体内に残留した体液を体外に排出するドレナージ吸引装置であり、排液ボトルと吸引ボトルという2つの透明なボトルを主たる構成とする。特に、直方体の排液ボトル、丸みを帯びた略立方体の吸引ボトル本体、その上部に取り付けられた球体のゴム球という、形状の異なる3つのパーツを一体化した形態が特徴であった。原告商品はポータブル低圧持続吸引器国内市場で約30%のシェアを有し業界首位であり、昭和59年の発売以来、多数の医療従事者向け書籍にも掲載され、医療機関への説明会や展示会への出展などが継続的に行われてきた。 被告は、平成30年1月頃から、類似形態の「マルチチャネル ドレナージ ポンプ(プレシジョン型)」(被告商品)を販売開始した。両商品は寸法がほぼ同一であり、ボトル形状や配管構成の多くが共通していた。相違点は、目盛・文字・ゴム球の色彩(原告商品は水色、被告商品は紺色)と、表示されている社名・商品名の違いにとどまる。原告は、被告商品の形態が原告商品の形態と類似し、原告商品との混同を生じさせるとして本件訴訟を提起した。 【争点】 主たる争点は、(1)原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか、(2)両商品の形態が類似するか、(3)被告商品の製造販売が原告商品との混同を生じさせるか、の3点である。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求を棄却した。 まず争点(1)について、原告商品の形態は、他の同種商品には見られない顕著な特徴を有し(特別顕著性)、昭和59年以来原告が長期間独占的に使用してきたこと、業界首位の販売シェア、多数の医療従事者向け書籍への掲載等から、被告商品販売開始時点で需要者に広く認識される周知な商品等表示に該当すると認めた。また、機能・効用発揮のため不可避的な形態とはいえないと判断した。 争点(2)についても、両商品の外観上の共通点が極めて多数に上り、相違点は細部の差違、色彩も同系色の差異にすぎず、社名・商品名表示も全体構成の一部にとどまることから、需要者が全体として類似と受け取るおそれがあり、「類似」に該当すると認めた。 しかし争点(3)について、裁判所は混同のおそれを否定した。すなわち、医療機器の取引は、専門家である医療従事者が製造販売業者から特色・機能・使用方法の説明を受けた上で購入を決定するプロセスを経ること、多くの医療機関で同種医療機器は一種類のみ採用する「一増一減ルール」が採用されていること、両商品にそれぞれ商品名・会社名が明示され、別々のパンフレットで販売されていること、原告・被告がともに相当なシェアを持つ競合会社として医療従事者に認識されていることなどの取引実情を踏まえると、形態の類似のみから出所の同一性や、親子会社・系列関係等を誤信させるおそれがあるとは認められないとした。 本判決は、商品形態の周知性・類似性が認められても、取引態様の特殊性から混同のおそれが否定され得ることを示した事例として、医療機器のように専門的需要者間で取引される商品の不正競争該当性判断に実務的示唆を与えるものである。