損害賠償請求控訴事件,同反訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「結ばない靴ひも」として知られる靴ひもに関する特許権(特許第5079926号「チューブ状ひも本体を備えたひも」及び特許第5392519号「チューブ状ひも本体を備えた固定ひも」)の共有持分権者である控訴人(香港在住の輸出業者)と、同じく共有持分権者である被控訴人(スポーツ用品販売会社株式会社ツインズ)との間の損害賠償請求控訴事件である。本件特許権は、控訴人、被控訴人、A及びBの4者が共有していた。 本件特許発明の実施品については、長年にわたり、①Bが中国国内の工場で製造し、②Aが梱包し、③控訴人が仕入れ、④被控訴人が日本に輸入して販売するという本件販売形態が続けられてきた。ところが、被控訴人は平成28年4月以降、控訴人からの仕入れを中止し、株式会社モリト及び株式会社スリーランナーに被告各商品を製造させて独自に販売するに至った。その背景には、控訴人による価格値上げ要求や実施品の品質不良等の事情があった。 控訴人は、4者間には本件発明の実施について固定的な役割分担合意(本件固定的役割分担合意)が存在し、これが特許法73条2項の「別段の定」に該当するから、被控訴人による独自の製造販売は特許権侵害に当たるなどと主張し、2億2000万円の損害賠償、被告各商品の製造販売差止め、特許権持分の移転登録等を求めた。被控訴人は反訴として控訴人の特許権持分不存在確認等を求めた。 原審は控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴し、当審で訴えの変更を行った。本判決は、中間判決として請求原因の理由の有無を判断したものである。 【争点】 本判決で主に判断された争点は、本件共同出願契約書(中国語・日本語の2種類が存在)13条が特許法73条2項の「別段の定」に該当するか、被控訴人の製造販売が同条に違反する特許権侵害となるか、被控訴人に過失があるか、香港での特許出願手続につき債務不履行があるか、信義則上の説明義務違反があるか、被控訴人の反訴提起の適法性等である。 【判旨】 知財高裁は、作成日付及び署名がある中国語版契約書(甲6契約書)をもって本件共同出願契約が締結されたと認定した上、同13条の「事前の協議・許可なく、本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し、又は生産・販売行為を行った場合、本件の各権利は剥奪される」との規定は、特許権の共有者が特許発明の実施である生産又は販売をすることについて事前の協議及び許可を要するものとして制限するものであり、特許法73条2項の「別段の定」に該当すると判断した。 そして、長年続いた本件販売形態は「事前の協議・許可」を経たものと評価できるが、被控訴人が平成28年4月以降に本件製造会社に被告各商品を製造させ独自に販売した行為については、事前の協議及び許可を経たと認められないから、「別段の定」に違反すると認定した。控訴人側の値上げ要求や品質不良等があったとしても、これをもって「別段の定」が解除されたとは認められないとした。また、被控訴人には少なくとも過失があり、特許法79条の2第1項の類推適用の余地もないと判示した。 他方、①香港での特許出願手続については、共同出願契約書12条はPCT国際出願を中国に国内移行させて香港特許庁に記録請求手続を行うことまでは規定しておらず、別途の合意を認めるに足りる証拠もないから、債務不履行は成立せず、②本件固定的役割分担合意がない場合に被控訴人が信義則上その旨を説明する義務があったと認めるに足りる根拠もないとして、これらに基づく損害賠償請求は理由がないとした。 さらに、被控訴人が控訴審で提起した反訴については、相手方控訴人の審級の利益を害し、かつ訴訟手続を著しく遅滞させるものであるとして、不適法却下した。 以上により、本訴請求のうち特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(控訴人の共有持分権に係る部分、数額の点を除く)には理由があり、その余の請求原因には理由がないとし、反訴請求は不適法として、主文のとおり中間判決した。本判決は、特許権の共有に関する特許法73条2項の「別段の定」の解釈について、共有者間の契約条項をもって実施を相互に制限することが可能であり、かつ長年の実態的な販売形態が同条の「事前の協議・許可」に該当し得ることを示した点に、実務上の意義がある。